interview

2020.09.10 掲載

南部綾/音楽教室musictree主宰

南部さんはピアノの先生。クラシックに偏らない幅広いジャンルの音楽を教材にし、即興演奏や作曲も取り入れるなど、自由で遊び心のあるレッスンを行なっています。ピアノの先生になるきっかけは、ジャズセッションに参加したことでした。衝撃のジャズとの出会いとは? お話をうかがいました。

南部さん4

子どものころ、教えてほしかった自由な音楽。
「それまではまったく普通の人だったんですよ」と語る南部さん。音楽活動とは縁がなかったという南部さんが、ご自宅に音楽教室を開くことになったきっかけは、8年前、ジャズのセッションに参加したことでした。
初めてジャズの生演奏を目の当たりにし、南部さんは音と音で会話が成り立っていることに驚きます。なにより一番の衝撃は、譜面がないことでした。
「ピアノって自由に弾いていいんだ!こんな世界があったんだ。これまで常識だと思っていたことがいい意味でくつがえされたのが、とてもおもしろかった。その日は感激で寝られなかったくらいです」
南部さんは考えます。どうして私の子どものころのピアノの先生は、これを教えてくれなかったのだろう。
「自由に音を出していいということは、自由に遊んでいいということ。子どもにとって最高に楽しい演奏です。子どものときにこそ、知りたかった。だから自分がピアノの先生になろうと思ったんです」

南部さん3

猛勉強を経て、音楽教室を開いて5年。
南部さんのレッスンはロック、ボサノバ、ジャズといった幅広いジャンルの音楽を扱い、即興演奏や作曲にも取り組めるなど、一般的なピアノ教室とは一線を画しています。大切にしているのは、子どもの自己表現力を伸ばすこと。
「幼い子どもは即興が得意なんです。思うままにピアノを弾いたり、その場で歌を作って歌えたりします。ところが小学3、4年生になると、とたんに自由に表現することが苦手になる」
それは成長過程で人目を気にする年齢に差し掛かったという、自然な変化かもしれません。けれど南部さんは一歩踏み込んで考えます。
「おそらく学校生活を通して、正解、正解でない、の二択に子どもが慣れてしまうのではないでしょうか。自由にどうぞと言われると、つい正解を求めてしまって、どうすればいいかわからなくなる。そんな子どもの姿を見るのは切ないです」
自信を持って音を出せない子どもに、自分の出す音を認めてほしい。それは自分自身を認めることにつながると南部さんは言います。
「レッスンでは子どもが出した音を肯定して、私がおしゃれなコードや格好いいリズムをつけるんです。あなたの出した音はとっても大事で、こんなに素敵なんだよと言ってあげたい。その手段を学びたくてジャズピアノのレッスンに通いました。ジャズの知識が役に立っています」

南部さん2

ワークショップ、本作り、これからやりたいこと。
南部さんは、ご自身の実践する指導法をもっと広めたいと考えています。
「ピアノを習いたいと思ったとき、クラシックを入り口に、昔ながらの順序で教本を練習していくのもいいと思います。でも好きな曲を弾いて、自由に音を出す学び方があってもいい。同じ考えの仲間と共同で、現在、いろんなジャンルの音楽を即興で弾けるような教本を作ろうとしています。また将来的には、指導する先生方を対象にした、指導法のレッスンといったことも実施できればいいなと思っています」
一方で、南部さんは友人のカホン奏者と協力し、打楽器などを使って自由に音で遊ぶワークショップも開催。懐かしい時代の地域の盆踊りのように、誰もが参加できて、みんなで一体感を得られる。そんな場を作りたくて始めました。参加者のなかには、譜面やルールのない音楽に初めて触れ、感動して帰る人も少なくありません。
8年前、ジャズセッションで得た感動を、今は自らが伝える側に立った南部さん。南部さんの発信する自由な音楽表現は、子どもたちはもちろん、多くの人の心を揺さぶっています。

ライター/かわださやか(取材当時2020年9月)

南部さん1

南部綾(なんぶあや)

兵庫県・猪名川町在住。幼少期からピアノを習う。2012年、ジャズセッションに出向いたことで自由な音楽の楽しさに目覚め、ピアノの先生になることを決意。3年後、自宅に「音楽教室musictree」を開設。ロック、ファンク、ボサノバ、ジャズなど幅広いジャンルの音楽を取り扱い、曲をアレンジする力、作曲する力を伸ばし、自己表現につなげるレッスンを行う。猪名川町の大自然のなかで、打楽器などを使って自由な表現を楽しむワークショップ「カホンでピクニック」主宰。

音楽教室musictree
https://musictreee.jimdofree.com