interview

2020.12.09 掲載

杉山悟史/ジャズピアニスト

杉山さんは関西を拠点に活動中のジャズピアニスト。学生時代、さまざまな音楽にふれるなかでジャズに傾倒し、研鑽を積んできました。プロミュージシャンになった今、演奏する上で大切にしていることとは? これまでの音楽人生と今後の展望について、お話をうかがいました。

杉山さん2

 

ジャズに目覚めてライブ三昧になるまで。
杉山さんがジャズに出会ったのは学生時代。軽音楽部に入部したことがきっかけでした。
「軽音楽部ではコピー演奏がメイン。先輩たちは市販のバンド譜を使わず、耳で音を取っていました。ベースがこんなことをしている、コードはこうなっていると何度も聞いて、耳コピをしては練習するの繰り返し。僕も自然といろんな音楽にふれることになりました」
そのなかで、ジャズの格好よさに気付きます。先輩がピアノでジャズを弾く姿を、目の前で見たことも大きな力になりました。
「ロックやポップスと違いすぎて、当時の僕には先輩が何を弾いているのかわからなかった。魔法がかかったみたいで、それが格好よかったんですよね」
4ビートのジャズのみならず、アシッドジャズやソウルまで探求しながら、ちゃんと弾けるようになりたいと、杉山さんはジャズピアノのレッスンにも通い始めます。
 
一方で、在学中3回生の後半からプロとしての演奏活動もスタート。
最初の仕事は、知人からの紹介で、レストランバーでの演奏でした。
「できもしないのにピアノソロ。今振り返れば、スタンダード曲を覚えたり、経験を積む良い機会でしたが、当時はただただ必死で」
その後も演奏活動を重ねていくなか、転機になったライブがありました。当時、杉山さんが客として通い詰めていたジャズのお店「Corner Pocket」のステージに、出演者として立つことになったのです。
「1回目はとにかく緊張して頭が真っ白になりました。2回目で少し落ち着いて、ようやく憧れの場所でライブができたと思えました」
この出演がきっかけで、「大学生でジャズピアノを弾く杉山」の存在が自然と周りに知れ渡り、おかげで演奏活動が波に乗ったと振り返ります。
「大学に入ったときは、お洒落なコードを弾けるようになりたい、音楽クリエイターとして将来有名になりたい、みたいな浅はかで漠然とした考えしかなかったです。でも大学3年になるころには、とにかくいけるところまで演奏したいと思っていました」
就職活動を終えた後、大学での最後の一年はまさにライブ三昧の日々。
「学生生活に悔いなし!言い切れます(笑)。本当に楽しかった」

3杉山さん
ファーストアルバム「SOMEDAY」

 
プロミュージシャンとして、今思うこと。
卒業後はいったん就職し、3年3カ月のサラリーマン時代を経て、退職。プロミュージシャンになって現在、11年目。
杉山さんが演奏家として大切にしているのは、「格好よさ」や「先人のように弾く」ことではなく、むしろそんな表面的な思いを捨てることだと言います。
「演奏には、格好つけたい、いいように思われたいという気持ちがつきまとう。今でもありますし、以前はもっとそうでした。でも、即興で演奏するということは、本当の自分を引き出すということ。頭で考えているよりもっと本音の自分が演奏に出ると信じる。出てくれと思うのではなく、必ずあるから、チャンスが来るのを待つ。そのために、何も考えない。一切を捨てるんです」
何も持たない、頼るものもない、崖っぷちに立つような感覚。そのなかでリラックスし、「水に飛び込むような精神」で何もかも始めないといけないと杉山さんは言います。「とても難しいことです。プロでもいつもできるわけではない。これができたときは、いい演奏。できている時間、できる確率を増やしていきたい」
こうした杉山さんの考え方は、学生時代に受けたレッスンや、ジャズを通して出会った人たちから学び、培われてきました。
「経験豊かで音楽を通して物事を深く見つめている人に教わったり、素晴らしい先輩のプレイヤーと共演したりすると、その世界に引き込んでもらえる。若いころそんな体験をしたので、より音楽がやめられなくなったのかもしれません」
 
コロナの影響でミュージシャンの在り方が変遷する今
杉山さんはネット配信ライブなど、新しい形態に柔軟に対応していこうと考えています。
「こういうときだからこそ、さすがアーティストと思ってもらいたい。仕方なくやるのではなく、全部に意味が見出せるように知恵をしぼって臨みたいと思います」
何かを見て感動する、心がふるえる。そんな「人間として生きているという感覚」を呼び覚ます一つの手段が、音楽。
「だから音楽を続けたい。周りの人の思いも汲みながら、協力しながら、今まではとにかくライブをしてきました。今後は新しい方法で発信していくことも出てくると思います。続けるためにがんばっていきたいです」
取材当時2020年8月 (ライター/かわださやか)

杉山さん

杉山悟史(すぎやまさとし)

4歳から12歳までをドイツ・ハンブルグで過ごし、小学校時代にクラシックピアノを学ぶ。関西学院大学でジャズと出会い、在学中より地元のライブハウスで活躍。2008年「第2回神戸ネクストジャズコンペティション」準グランプリ受賞。2010年JAZZ LAB.RECORDSより自己のアルバムを全国発売。2012年ニューオリンズのフレンチクオーターフェスティバルに出演。2014年単身渡米。2年間の滞在中、現地ミュージシャンとのセッションを重ねる。

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